本薬師寺跡は、藤原京時代の薬師寺の境内の一部が残っている場所である。その後,平城京遷都とともに,現在の西ノ京の薬師寺のある場所へ移転した。現在の本薬師寺跡にはいくつかの本堂の礎石が残されているのみである。その並べられた礎石を見るたびに僕は古都の繁栄の名残を感じる。この小さな寺院は近鉄畝傍御陵前駅から歩いて15分ほど行った場所にある。駅の反対側には大和三山の一つである畝傍山が聳え、その近くには神武天皇陵がある。本薬師寺跡からは畝傍山の美しいシルエットを望むことができ、付近では夏にホテイアオイや蓮の葉が開花して写真好きな方たちの撮影スポットになっている。
ところで,橿原市内及び市周辺には32基の万葉歌碑が置かれている。本薬師寺跡にもこの一つが置かれていて、
萬葉集 巻三
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忘れ草 わが紐に付く 香具山の 古りにし里を 忘れむがため
という大伴旅人の歌が刻まれています。
訳:忘れ草を、私は着物の下紐につけて、青春を過ごした天香具山の麓の故郷への思いを忘れよう。忘れ草は、花を身に着ければ、悲しみ、憂いを全て忘れられるから。
この当時、大伴旅人は大宰府に在って、故郷への慕情を断ち切りたいとの心情を詠んだ歌とされている。万葉歌碑については、万葉集研究に生涯を捧げた犬養孝氏の功績が大きく、犬養氏は万葉の景観をまもるため万葉故地が乱開発される現状に抗議し、日本全国の万葉故地に所縁の万葉歌を揮毫した「万葉歌碑」を建立し、万葉のふるさとである飛鳥(明日香村)の古都保存に尽力をされた。その努力があって、今こうした古都の景観を観て、写真撮影ができるのだと思う。
下の写真は、Hasselbrad 503CXにPlanar 80mm f/2.8レンズで撮影した。夕刻の本薬師寺跡である。