先日、入江泰吉記念奈良市写真美術館で開催している『聖徳太子没後1400年 入江泰吉×工藤利三郎「斑鳩」展』を観に行った。工藤利三郎は明治期の写真家で、その作品には、焼損する前の法隆寺の金堂壁画の写真など大変貴重なものが多い。奈良の写真家入江泰吉の写真作品は今までたくさん観てきたが、今回の斑鳩に的を絞った展示も新たな視点でとても良かった。
二人の写真を見ていて強く感じたことは、写真の記録としての側面の重要性であった。写真家の写真というとどうしてもアーティスティックな側面が重視されがちであり、現代社会においてはその要素が写真家の評価において重要であることは否めない。売れる写真家の写真は500pxでよく見かけるような派手な色遣いのランドスケープ、美しすぎるポートレートなど枚挙に遑がない。しかし、僕自身は工藤利三郎や入江泰吉に見られるようなその時代の記憶、記録としての写真が好みであるし、重要だと思っている。二人が生きた奈良は、時代が何十年も違う。そしてそこに映る奈良もやはり時代をよく反映していて興味深い。さらに連続性がある点も見逃せない。僕はこの展示において、改めて写真という媒体の記録という側面が大切だと感じた。その時にしか撮れない写真があり、人々の生活がある。同じ建造物でもわずかに表情が違ってくる。この比較対象としての写真作品が並ぶ今回の展示は大変良かったと思う。
撮影機材:LeicaMMonochrom(Typ246)+Jupiter-8 50mm f/2である。
※工藤利三郎に関する記事は以下の書籍にも載っています。参考までに。